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いまさら過払金ってなに

 私が債務整理事件を多く受任することになったのは、1996年に独立してからのことです。弁護士会の法律相談で受ける事件の多くは、自己破産、任意整理でした。なぜか高齢で無職、弁護士費用が払えない依頼者が特に私のところに多く配点されていたように思います。ですから弁護士会の職員の方に「うちの事務所つぶれちゃうよ」と冗談とも本気ともとれるようなことを言っていました、当時は借主が一度消費者金融から借り入れをすると、なかなか完済することは難しい状況でした。

その理由は、利息が高いうえに、本人の収入では返済しきれないくらいの借入枠が設定されていたからです。今思えば消費者金融であっても取り立ては厳しい状況でした。当然のことではありますが、借りたものは返さなければならないという思いが借主にありました。消費者金融に対して10年、20年、30年返済し続け、高齢になり仕事をしながら、なお払い続けている真面目な人がいたのです。こういう人は取引履歴を取り寄せて引き直し計算をすると大きな過払が発生していました。また他で自己破産をすすめられたのち、当事務所に相談に来て大きな過払が発生していたことが分かったというケースもありました。

 過払金が生じる理由については、既に色々なところで取り上げられており、ヤミ金についてのブログでも書きましたので詳細は省略しますが、2010年6月施行の出資法改正までは貸金の利息に関して定める利息制限法に反しながら刑事上お咎めを受けない、いわゆるグレーゾーンと言われる領域があり、利息制限法に違反するが刑事上お咎めを受けない金利領域が存在しました。消費者金融・信販会社の多くはこのような領域で金銭の貸付けを行っていたわけです。弁護士は事件を受任してこういった業者から取引の開示をしてもらい、提出された取引履歴をもとに利息制限法に引き直して計算をするのですが、業者が約定利息として徴収されていた部分が利息制限法に従うと元金に充当されることになり、その計算を繰り返し行っていく中で、業者主張額と引き直し計算額は大きく離れていきます。取引が長くなればなるほど、この隔たりは大きくなっていき、ついには引き直し計算の結果業者に対して返済をするどころか、多く払いすぎていたという状況が生じる場合があります。その場合に、その多く払いすぎている部分の返金を求めるというのが過払金返還請求権の中身です。法律構成としては不当利得(民法703条704条)になります。仮に年利29.2%で貸し付けた場合を前提にすれば、取引が5年半あれば引き直し計算後の残高はゼロか過払になっている可能性が高いという調査結果があります(日弁連金利引下げ対策本部の調査結果より)。そして上限金利が年利40.004%の場合(2000年6月以前)は、もっと短期間の取引でゼロか過払になっていることは想像できます。相当程度長期間継続して特定の業者から借り入れをしている依頼者の場合には高金利で借り入れをしていた結果、引き直し計算により過払金が数百万円に達するケースもありました。

 業者によってはなかなか取引開示に応じず、取引の開示まで半年以上かかるケースもかなりありました。いかにして取引を全部明らかにさせ引き直し計算により正確な取引履歴を把握するかが過払金を把握するする上での出発点でした。取引履歴が開示されない場合には、通帳に記載されている返済を基に、借入金額を推定し計算したり、それまでの取引履歴を参考に開示されていない部分の取引を推定して計算するなどの方法により引き直し計算後の取引を作り上げ、訴訟を起こして回収する方法をとりました。

 私のみならず債務整理事件の処理で相手方に当たる貸金業者が取引履歴のすべての開示を行わず、その結果事件の処理に支障を来す弁護士が多く存在しましたので、東京三弁護士会で弁護士からの貸金業者に対する苦情を集めて、一定期間ごとに私が東京三弁護士会の資料をまとめて、さいたま市にある関東財務局に出向いて繰り返し行政指導の申請を行ってきました。私が関東財務局に出向いた期間は5,6年はあったでしょうか。現在は必要なくなりました。

 話は変わりますが、業者について言えば、借主が相当長期で借り入れをしている場合、業者名が変遷している可能性があります。 例えば、CFJの場合ユニマットライフ、マルフク、千代田トラスト(本田ちよ)、ディックファイナンスの4社が合体しています。ですのでCFJから取引を開示してもらうと 複数の異なる取引が開示されてくることが少なからずありました。レイクについても、レイク→GEコンシューマーファイナンス→新生フィナンシャルと変遷しています。信販系でも三菱UFJニコスはUFJカード、日本信販、ディーシーカードが合体して おりますので、三菱UFJニコスに対して開示を求めたとき複数取引が開示されてくる可能性があります。

 このような過払金は2010年施行の出資法改正によりグレーゾーンが撤廃された(出資法の上限金利が年利20%に抑えられ、利息制限法を超え上限金利を超えない範囲の貸付は 貸金業法違反として行政処分の対象になりました)ため、2010年6月18日施行後は発生しないことになりました。また、過払金返還請求権は最終取引から10年で消滅時効にかかりますので、もし請求されるのであれば急がれることをお勧めします。皮肉なことに過払金という言葉が広く認知されるようになったにもかかわらず、法改正で過払金が発生しなくなった事とともに武富士を初めとする消費者金融の倒産などと相まって、業者に対する過払金の請求は今後行いにくくなってくる事は確かだと思います。

                                       弁護士 石鍋毅 TAKESHI ISHINABE

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